AC/MEMO

大航海時代Online - in Euros - さだまさしをBGMに模擬をする軍人 Archieがつづる航海日誌です

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

大航海時代ブログランキングに参加しています

船乗りの保険 の続き

さて、だいぶ間があいてしまいましたが、前回の続きをUPします。
船乗りの保険を調べにビスケー湾を北上した4人のその後とは!!
アーチーが戦闘用ピンネースに拿捕されたのは事実なのか!?
その謎が解き明かされるゥ!?

続きを読むからどうぞ~!



※戦列艦で戦ピンに拿捕されたのは事実デス

大航海時代ブログランキングに参加しています

リスボンを発つこと7日。
北東大西洋で南東からの風をつかんだクリッパーは、ドーバー海峡を通り過ぎ、ロンドンに到着していた。
4人は酒場で懐かしのフィッシュ&チップスをお腹いっぱいに収めると、さっそく、学者の許へ出向いたのだった。

「やあ、よくいらっしゃいました」
茶色い大きなドアが開き、中から赤いローブをまとった学者が現れた。
衣擦れの音をさせながら、4人を出迎える。

「お時間をとって頂いて、ありがとうございます」アーチーが頭を下げる。
「いいえ。あなた方の冒険を助け、知識を伝えるのが私の役目ですから。さあ、どうぞ」
まだ若いこの学者は柔和な笑みを見せると、洗練された仕草で4人を中央にある部屋へと誘った。
そうして通された場所は、ロンドン一の図書室だった。
小さなアパルタメントほどの部屋に、壁の上から下まで本が並んでいる。本がない場所といえば窓の周りだけだ。書棚の隣にあるのは考古学の文物だろうか。室内には一人の法学生がいて、音も立てずに勉強している。
その様子を、鈍色の光をはなつ甲冑が静かに見つめていた。

「お忙しいでしょうから、さっそく質問させて頂きますね」
ミハルコが口を開くと、それにトモヤが続いた。
「実は僕たち、船乗りの保険について調べているんです。リスボンの銀行に問い合わせたら、詳しく知りたいのならロンドンで調べるのが良いと聞きました。それでこちらを尋ねたんです」
「なるほど、そういうことでしたら、私の蔵書の中にも保険に関する記録がありますよ」
学者はそう言うと立ち上がり、書棚から何冊か抜き取った。革で装丁がほどこされたその本をぱらぱらとめくりながら、彼は語りかける。
「みなさんは、冒険貸借という言葉をご存知ですか?」
「ボウケンタイシャク?」
「そう、ぼうけんたいしゃく」

聞きなれない言葉にアーチーがきょとんとしていると、学者と目の合ったチェイサーがこう答えた。
「貸借だから、お金の貸し借りですよね。それも冒険に関する」
「その通りです、チェイサーさん」
学者が微笑むと、それに合わせてチェイサーもにっこりと微笑んだ。
「冒険貸借というのは、遠くギリシャ時代から存在する、最も古い保険の形です。12世紀頃からジェノヴァやピサなどのイタリア北部の都市で盛んになったと言われています。航海者たちは、積荷や船を担保にして金融業者から借金をし、交易を行います。船が無事に帰港すれば、借りたお金に多額の利子をつけて返済する義務がありますが、万が一、嵐にでもあって船が沈んだり、海賊に収奪されて全てを失った場合は、借金の返済が免除されました」

「免除ですか!?」
アーチーがすっとんきょうな声をあげると、
「そうです。これは“すべて”無くした場合だけですよ」
と、学者は笑いながら答えた。
「航海に失敗してもやり直せるんですね!すごい制度だ」
「でも成功時に払う利子はとっても高いんです。元金の三分の一を支払ったという記録も残っています」
「じゃあ交易が成功しても、利子の支払いにほとんど持って行かれちゃうのね」
ミハルコが残念そうに言う。

「金融業者は航海前にお金を都合すると共に、海上での危険も負担していますからね。彼らにとっては二重の負担です。これの対価と言ったところでしょう」
「トモヤ・ニコニコ金融より利子が高いところがあるのか……」
と、トモヤがみなに聞こえない程の声でつぶやいた。

「冒険貸借の伝播ルートをたどると、とても面白いことが分かりますよ」
「こっちの地図を見れば良いですね」
チェイサーがページをめくり、付属のヨーロッパ地図を指し示した。
伝播ルートは、ジェノヴァ・ピサから始まり、マルセイユ、バルセロナ、バレンシア、リスボン、ボルドー、ナント、アントワープ、アムステルダム、ハンブルグへと伝わり、最後にロンドンへとつながっていた。
「あっ、ロンドンだ!」
「最後にロンドンが出てくるってことは!最先端ってそういうこと!?」
アーチーとミハルコが興奮する。
「まあ、そう結論を急がずに行こう」
冷静に答えるチェイサーも、少しずつ近づいてくる真実に胸を高鳴らせているようだ。

「このルートを見て分かるように、イタリア商人の活動範囲の拡大と共に、保険制度がヨーロッパを北上しているのが分かります。オスマン帝国の台頭による東方貿易の衰退や、神聖ローマ帝国フリードリヒ2世のイタリア・ロンバルディア地方への派兵によって、イタリア商人の移住が促された結果でしょう」
「保険も、人や船と共に、海を渡ったんですね」
アーチーが感慨深げにそう話すと、
「むしろ、船あるところに保険ありって感じだな」
と、チェイサーがひとつの答えを出した。

「なるほど、冒険貸借については分かりました」
地図を熱心に見ていたミハルコが学者のほうへ向き直り、続けてこう言った。
「でも、私たちが今使っている保険とだいぶ違いますよね。なぜなんでしょう?」
ミハルコの質問を受けて、学者がまたやわらかい笑顔を見せる。
「良い質問ですね。12世紀に隆盛を極めた冒険貸借は、13世紀中ごろに転換期が訪れます。西暦1230年頃、ローマ法王グレゴリー9世がキリスト教の教えに基づき、利子の受け渡しを禁止してしまったのです。冒険貸借は金融業者側が利子を貰うことを前提に考えられた制度ですから、こう根本が覆されてしまっては商売になりません」
「えっ」
突然の邪魔者に、アーチーが思わず声をもらした。
「100年以上続いてきた制度なら、利用者側にもだいぶ浸透していますよね。冒険者たちはどうしたんだろう?」
不安そうな顔を向けるアーチーに、トモヤが同調してつぶやいた。
「若葉マークの航海者なのに初期費用もらえないのは、そりゃ大打撃だ」

「そこで両者は、あの手この手でこの冒険貸借を続けていこうとします。例えば、金融業者が行ったサービスに対する報酬として利子にあたる金額を払うとか、返済金を貸付金とは異なった鋳造金貨で支払い、その相場の差額を金融業者が受け取るとか……。まあ、よく考えています。色々と方法があるものですね」
「ひゃあ、教会が絶対の時代にそんな地下活動するなんて、勇気あるよ!」
ミハルコは、目を白黒させて驚いている。
「商人の執念だな」
トモヤが笑いながら言と、チェイサーが、
「冒険家の執念だぜ!」
と切り替えした。
3人の受け答えを見たアーチーが思わず噴出すと、みなの様子を見ていた学者が言葉を続けた。
「しかしながら、」
4人の顔が一斉に学者に向けられる。

「冒険貸借は、航海中に遭難したら返済しなくていいのですから、これを悪用する輩も出てきます。それと平行して、長年交易をしている者の中には、かなりの財産を蓄えて、もはや航海前の資金調達としての冒険貸借が不要になった人々が現れました」
「正装度が高くないと会えない大商人たちね」
と、ミハルコが反応する。
「そういった人々にとっての一番の心配事といえば、新たな航海に出た結果、今ある財産をすべて失うことです」
「海の上では何があるか、分かりませんもんね」
アーチーが分かる分かるといった風に答えた。
「そうですね。そこで、海上での危険だけを誰かに負担してほしいというニーズが生まれました」
「あれ?それって今の船乗の保険と一緒じゃありません?」
「ええ、つながりましたね」
学者が再びにっこりとした。

「冒険者のニーズに応える形で、船乗の保険が誕生します。これは金融業者側でも、事故が起きた際に補償金を出すだけの方が、借金を踏み倒されるよりも得だと勘定したのでしょうね」
「なぁ~るほどね!そうやって形が変わっていくんだ」
アーチーがへぇと言ってひざを打つと、ミハルコが次の質問を投げかけた。

「今と比べて昔は、情報の伝達に時間がかかったと思いますけど。世界中の人々がすぐにこの保険制度を使えるようになったんですか?」
「いいえ」学者はメガネの位置を直し、顔を白いハンカチで拭いながらこう答えた。
「船乗りの保険、つまりは海上保険ですが、これがすぐに市民権を得たわけではありません。ですから地下にもぐった冒険貸借もすぐに姿を消したわけではないんですよ」
学者はそう言うと、くるりと体の向きを変え、今度は入り口側にある本棚へ手を伸ばした。4人の居る閲覧用の四角いテーブルに学者が戻ってきた時には、机の上に本が一冊増えていた。
「これは、西暦1370年7月12日に締結された海上保険の契約書の写しです」
学者の示す資料に、4人の目が釘付けになる。そこにはイタリア語でこう書いてあった。

『1370年7月14日より航海に出るわたくしフェデリコ・リリャーノ(以下甲)は、アンドレア・サバディーニ(以下乙)と売買契約を結び、今航海で運ぶすべての積荷を乙に売り払う』

ミハルコとチェイサーの声が重なって図書室内に響くと、そこにトモヤの疑問の声があがった。
「自分が運ぶ積荷を、売り払っちゃうの?」
その疑問に、学者がおちついた声で答えた。
「これは、保険契約を普通の売買契約のようにみせかけている契約書なんです」

へえ!という4人の驚きの声が、音にならずに空間を潤した。
一瞬の間があって、学者の口が開く。
「その続きを読んでみてください」
再び、チェイサーとミハルコの声が重なった。

『航海が無事終了した暁には、この契約を無効とする。』

「あれ?どういうことだ?」
アーチーがはてな、という顔をした。
「まずは、航海開始前に金融業者が船主からその船や荷物を買い取った風を装います。そして、万が一にも、それらが事故にあった時は売り上げ代金にあたるもの、即ち船主が受け取るべきであった利益を、金融業者が支払うのです」
「へえ、それなら、実際にお金は動いていないから、金融業者は痛くも痒くもないね」
と、トモヤが合点する。
「この時代の海上保険契約を、「仮装保険」とか、「保険貸借」と呼んだりします。これらの保険が、14世紀から15世紀にかけてだんだんと形を整え、現在の船乗の保険のような、独立した契約となっていくんですね」
「15世紀といえば、まさに大航海時代だね」
チェイサーがそう言うと、今までこめかみに手をあてて考え込んでいたミハルコがさっと顔をあげ、はっきりとした口調でこう言った。
「今まで疑問だったんです。船乗りの保険が、どうやって世界中に広まったのかって。だって、冒険貸借から海上保険へのニーズに達するまでにイタリアでは100年もかかってるじゃないですか。他の地域でもそのくらいかかって当然なのに、今は地域差が無い。大航海時代という欲望が未開の土地に人々を駆り立てたから、その結果、世界的に海難事故への補償ニーズが高まった。それが海上保険の伝播を後押しする形になったというのなら、納得がいきます」
それを聞いた学者は一度だけこくりとうなずくと、言葉を続けてミハルコの説を補完した。
「そうですね。今日、海上保険が広く使われるようになった背景には、すでに冒険貸借の伝播ルートが完成していて、保険制度が伝播しやすい環境であったこと。そして、海図の整備や羅針盤の普及、造船技術の向上で大型化した船舶によって、海路による物流がより盛んになったことがあげられますよ」
「歴史と欲望が交じり合ったもの。それが保険なのかな」
トモヤが半分分かったような、でも分からないなといった風にぽつりと言った。


「さて、みなさん、お疲れではありませんか。どうです、近くのコーヒーハウスでコーヒーを一杯」
と学者が言った。
突然のことに4人はとても驚いたが、この申し出を受けることにした。
集中して聞いていたので気がつかなかったが、この図書室に来てから1時間は経っているのだ。
「話続けたらのどが渇いてしまいましたね」
学者は少し照れながらそう言うと、それに、と言葉を続けた。
「最近まったく外に出ていなくて」
と笑うのだった。



図書室にいた法学生に留守番を頼んだ学者は、4人と共に港近くのコーヒーハウスへと向かった。10分ほど歩いて、船着場の近くに位置する店に入る。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、学者と顔なじみなのだろう、マスターと思しき壮年の男性と、ウェイター数人がこちらにむかって挨拶した。
「やあ、マスター。今日も良い情報が入っていますか」
「ロンドンマーケットの宝石の相場が崩れたみたいでね。それを扱ってる商人たちがやきもきしてますよ。おや、お連れさんですか」
「どうも」
チェイサーが挨拶すると、他の3人もそれに続いて挨拶した。
「ええ、図書室のお客様です。今日は海上保険の現場をお見せしたいと思って、お連れしたんです」
「先生……?現場っていったい?」
ミハルコが不思議そうな眼差しで、学者の顔をのぞく。
「まあ、見ればすぐ分かりますよ」
と学者は言うと、手のひらを上に向け、店の奥のほうにみなの視線をうながした。
そこには、今航海から戻ったという風情の航海者たちが、思い思いの時間を過ごす景色があった。
新聞を読む者、談笑する者、契約書だろうか、紙を見ながら真剣に話し合う者。本当に様々だ。
4人がその空気にのまれていると、ドアがぱっと開き一人の小僧が走り入ってきた。手には新聞をたくさん抱えている。

「ニュースだよ!ジャポンからの交易品が港に着いたって!ロスは無しだよ!到着が遅れていたサンタ・モニカ号がプリマスに入った報告もきてるよ!それから、ギャラウェイズでパーシー卿の船に巨額な保険がかけられたって話だ!続きはこっちを見ておくれよ!」

小僧が言い終わるやいなや、今まで思い思いの作業をしていた客たちがどっとその新聞に駆け寄り、厳しい表情で情報をあさりだした。
「先生、これは……」
見たことのない光景に、アーチーがたじろぐ。トモヤもミハルコも及び腰だ。

「ここはロイズというコーヒーハウスです。この店は出航所のすぐそばにありますから、いち早く船や積荷に関する情報を得られると評判の店なんですよ。先ほど小さい子供が新聞をたくさんかかえていたでしょう。あれは、ロイズがお客に無償提供している積荷情報誌です。船乗りたちは『ロイズ・ニュース』と呼んでいますね。1600年頃から、ロンドンで多くのコーヒーハウスが開業しました。店の特色を出すために、ロイズではこの手法をとったんですね」
「僕、ロイズで船乗りの保険がかけられるってフレが言っていたのを、聞いたことあるぞ」
と、トモヤが言った。

「そうです。積荷の情報が入るということは、一緒に海難事故の報告も入って来ます。それらを精査したうえで、その場で保険契約ができるのがロイズの特徴と言えるでしょう」
「リスボンの銀行員が言っていた、保険の最先端ってもしかしてこのコーヒーハウスのことですか?」
チェイサーがはっとして、声をあげた。

「ご名答です。ここへお連れした意味が分かってもらえたようですね。今やロンドンはこのコーヒーハウスの隆盛と共に、保険市場の中心地なのですよ」
学者はそう言うと、今日一番の笑顔をみせた。その顔は、仕事がやっと終わったという安堵感と、航海者たちに自分の知識を伝えることができた満足感に満ちていた。
「おお、チェイサー、あなたはシェイクスピアじゃなかったのね」
ミハルコがくすくすっと笑うと、すぐさまチェイサーが反応する。
「あれは、俺の一世一代の台詞回しだったんだ!!!!」
思い出したくなかった、という口調でチェイサーがミハルコに言った。その様子が、いつもの冷静さとはかけ離れていたせいだろう。顔を真っ赤にしているチェイサーを見て、トモヤとアーチーは腹をかかえて笑った。そこに、店のマスターが5人分のコーヒーをお盆にのせてやってきた。
「さあ、知識の乾杯といきましょう」
学者の掛け声とともに、全員がカップをもった。
「ロンドンの保険に!」
「船乗りの保険に!」
「乾杯!」
4人と学者の声は、コーヒーハウスの賑わいにつつまれていた。

<<完>>
関連記事

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://archieseasew.blog18.fc2.com/tb.php/262-8cbdec9a
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。